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省エネ基準への適合を判定する手続きである「省エネ適判」において、
最も多く使われている計算方法である「モデル建物法」には、「通常版」と「小規模版」
の2種類が存在します。
通常版と小規模版では、評価対象となる外皮や設備機器の種類などの違いが存在します。
この違いにより、小規模版の方が通常版より容易に省エネ性能を計算することができます。
一方で、小規模版は通常版より計算結果が大まかになる傾向もあります。
ではどの程度、計算結果に差が出るのでしょうか。
今回は、同一の建物に通常版と小規模版の両方の計算を適用した際にどれだけ差が出るのか、
検証します。計算方法を決定する際の参考になれば嬉しいです。
検証する建物
今回、計算結果を検証する建物は、国の講習テキストで紹介されている小規模非住宅を採用します。
平面図
出典:国土交通省 小規模非住宅建築物設計者用講習テキスト(図面)
【 https://www.mlit.go.jp/common/001627117.pdf 】
テキスト内では、「小規模版モデル建物法」の計算方法を説明をするため使用されています。
「小規模版モデル建物法」は、将来廃止される計算方法であり、「モデル建物法(小規模版)」とは
異なる計算方法である点、ご注意ください。
図面をご覧いただくと、用途は事務所で2階建ての建物であることが確認できます。
外皮仕様・設備仕様
2枚目の図面には、断熱や建具、設備の仕様も記載されています。
出典:国土交通省 小規模非住宅建築物設計者用講習テキスト(図面)
【 https://www.mlit.go.jp/common/001627117.pdf 】
建物の基本情報から断熱仕様、建具仕様や空調熱源の能力などについて記載されています。
この事務所に対して、モデル建物法の通常版と小規模版の両方の方法で省エネ性能を計算してみます。
計算の前提条件
モデル建物法を活用して、先の図面の省エネ性能を計算しようとすると、
情報が足りないことが分かると思います。
計算をするために不足している情報は、こちらで仮定の上で補足します。
外皮仕様
外皮の評価に関する内容で不足している情報と、今回設定する値は以下のとおりです。
・1階の階高:3.0m ※各部分で同一
・2階の階高:2.8m ※各部分で同一
・窓仕様1のガラス:2LgA06
・窓仕様2のガラス:2LsA06
・風除室北側のドア:AD1、幅2.0m×高さ2.4m、アルミ性建具、強化ガラス6㎜厚
ブラインドの有無や鉄筋コンクリート造の壁・屋根の熱抵抗は考慮しないものとします。
設備仕様
設備の評価に関する内容で不足している情報と、今回設定する値は以下のとおりです。
・換気扇の電源:単相
・役員室兼応接室の用途:事務室
・役員室兼応接室と事務室2の照明器具:全てCL-1
・照明器具の室指数:評価しない
・ガス給湯器の給湯用途:ミニキッチン相当
・電気温水器の配置:各WCに1台ずつ
・給湯設備の保温仕様:評価しない
小規模非住宅建築物ではあまり三相の換気扇が採用されないため、
今回の換気設備は全て単相として評価対象外とします。
ガス給湯器についても、今回は評価対象外とします。
また、設備機器の能力値は全て所定のJIS規格に適合しているものとします。
・パッケージエアコンディショナ(空冷式)の定格能力・定格消費電力:JIS B 8616
・照明器具の消費電力:JIS C 8105-3
・電気温水器の定格能力・定格消費電力:JIS C 9219
・ガス給湯器の定格能力・定格消費電力・定格燃料消費量:JIS S 2109
なお、給湯設備の配管保温仕様は「保温仕様3」と図面に記載されていますが、
入力マニュアル上で推奨されていないため、全て「保温仕様D」として計算します。
モデル建物法(通常版)の計算結果
まずはモデル建物法(通常版)で計算をしてみます。
結果は、以下の通りです。
モデル建物法(通常版)で一次エネルギー消費量を計算するとこのようになります。
設計一次エネルギー消費量の指標であるBEIの値は「0.61」となり、
基準一次エネルギー消費量に対して約39%のエネルギー消費の削減ができていることが分かります。
モデル建物法(小規模版)の計算結果
次にモデル建物法(小規模版)で計算をしてみます。
結果は、以下の通りです。
モデル建物法(小規模版)で一次エネルギー消費量を計算するとこのようになります。
通常版と比較して、入力されている情報の量が大きく減っていることがご確認いただけます。
なお、設備機器の性能値の評価方法は以下の通りです。
・空調熱源の定格消費電力・定格燃料消費量:評価しない
・照明器具の消費電力など:評価しない
・給湯設備の加熱能力・定格消費電力・定格燃料消費量:評価しない
この場合、設計一次エネルギー消費量の指標であるBEIの値は「1.05」となり、
基準一次エネルギー消費量に対して約5%、エネルギー消費が多いことが分かります。
外皮面積を計算していないことや代表的な建具仕様のみを評価していることも要因となりますが、
やはり設備機器の能力値を全く評価していないことが、今回の計算結果につながっています。
では今回の事例において、どのようにすればBEIの基準「1.00以下」を満たすことができるので
しょうか。その方法については、次回の記事で紹介します。
まとめ
今回は、モデル建物法(通常版)とモデル建物法(小規模版)違いを
同一の建物に対する計算結果の観点で解説しました。
・入力する情報はモデル建物法(小規模版)の方が少ない
・計算結果はモデル建物法(通常版)の方が性能が高くなる
・モデル建物法(小規模版)の性能が低い大きな要因として、設備機器の性能値を評価しないことが挙げられる
・モデル建物法(小規模版)を活用してある程度の性能を満たすための方法は次回の記事で紹介
次回は、モデル建物法(小規模版)を活用した場合の省エネ性能向上のためのポイントについて
解説します。お楽しみに!