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国により、非住宅建築物に対する省エネ基準適合への義務化が推し進められています。
2025年には、一部の例外を除き、全ての非住宅に省エネ基準への適合が義務付けられます。
この記事を読むと、非住宅建築物の省エネ基準への適合を評価するために行う、
3つの計算方法と、それらの特徴を知ることができます。
それぞれの特徴を把握して、業務で使いこなしましょう。
2025年、全ての非住宅は省エネ基準の適合義務の対象となる
2017年、建築物の省エネ性能の向上を図るため、「建築物省エネ法」が誕生しました。
この法律により、省エネ基準への適合義務制度が創設されました。
・2017年:大規模建築物に、省エネ基準への適合義務が課せられる
・2021年:中規模建築物に、省エネ基準への適合義務が課せられる
・2025年:原則すべての建築工事に、省エネ基準への適合義務が課せられる予定
・2030年:新築建物の平均値がZEH・ZEB水準とすべく、段階的に基準を引き上げ
このように、2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、
非住宅建築物対して必要とされる省エネ基準の対象は、
拡大・引き上げされる予定となっています。
なお、非住宅建築物の省エネ基準への適合は、
「BEI」という省エネ性能で評価することができます。
「BEI」は、エネルギー消費量の基準値に対する、
設計された建築物のエネルギー消費量の比率を数値で表したものです。
非住宅建築物の省エネ計算方法
非住宅の省エネ性能であるBEIを計算する主な方法は、3つあります。
それぞれの特徴を簡単にまとめると、以下の表のとおりとなります。
計算方法 | 概要 | 特徴 |
標準入力法 | 計算に必要な情報を、室単位でEXCELシートに入力し、それをWEB上のプログラムに読み込ませることで省エネ性能であるBEIの値を計算できる方法 | ・計算結果が正確 ・ルールが多くてシートの入力が難しい ・オススメ度:★☆☆ |
モデル建物法 | 計算に必要な情報を、用途別に建物をモデル化した”モデル建物”の単位でEXCELシートに入力し、それをWEB上のプログラムに読み込ませることで、省エネ性能であるBEIの値を計算できる方法 | ・計算結果がある程度正確 ・シート入力は比較的分かりやすい ・最も活用されている計算方法 ・オススメ度:★★★ |
小規模版モデル建物法 | WEB上のプログラムで入力する最低限必要な情報から、省エネ性能であるBEIの値を計算できる方法 非住宅の計算対象部分が300㎡未満の建築物が対象 | ・計算結果は大まかとなる ・入力事項が最も少ない ・主たる室の設定が少し難しい ・オススメ度:☆☆☆ |
それぞれの詳しい特徴について、1つ1つご説明いたします。
標準入力法(オススメ度:★☆☆)
出典:建築物のエネルギー消費量計算プログラム(非住宅版)
WEB上にあるプログラムを活用した計算方法です。
別で用意されているEXCELシートに、
必要事項を入力したデータをアップロードすることで、
省エネ性能である「BEI」をプログラムが計算してくれます。
プログラムにアップロードするEXCELシートも、
建築研究所のホームページ上からダウンロードできます。
出典:国立研究開発法人 建築研究所「建築物のエネルギー消費性能に関する技術情報」
【 建築物のエネルギー消費性能に関する技術情報 (kenken.go.jp) 】※5.2 サンプル1
ページ内「5.2 標準入力法」の内にある「外皮・設備仕様入力シート」が、
画像にあるEXCELシートの元データとなります。
この計算方法の特徴は、2つあります。
計算結果が正確
外壁の面積や空調機の仕様など、
計算に必要な情報を、室別で細かく入力をするため、
計算結果は正確な値となります。
各室の形状や空調機の室内機等、
様々な情報をEXCELシートの中で入力することができます。
結果が正確であるため、ZEBを示すための計算にオススメです。
ルールが多くてシートの入力が難しい
計算結果が正確な値となる一方で、必要事項の入力が難しい側面もあります。
建築設備にある程度精通していないと、理解しづらい入力項目が多く、
正しい情報を入力するために覚えるルールが多く、扱いが難しい計算方法となります。
これらの細かい入力ルールは、マニュアルで確認することができます。
出展:国立研究開発法人 建築研究所「標準入力法 入力マニュアル」
モデル建物法(オススメ度:★★★)
出典:モデル建物法入力支援ツール
WEB上にあるプログラムを活用した計算方法です。
別で用意されているEXCELシートに、
必要事項を入力したデータをアップロードすることで、
省エネ性能である「BEIm」をプログラムが計算してくれます。
建築物の用途ごとに定められた”モデル建物”を用いて計算をするため、
標準入力法と比較して、計算に必要な情報が
簡略化されていることが、大きな特徴です。
プログラムにアップロードするEXCELシートも、
建築研究所のホームページ上からダウンロードできます。
出典:国立研究開発法人 建築研究所「建築物のエネルギー消費性能に関する技術情報」
【 建築物のエネルギー消費性能に関する技術情報 (kenken.go.jp) 】※5.1 サンプル1
ページ内「5.1 モデル建物法」の内にある「モデル建物法入力シート」が、
画像にあるEXCELシートの元データとなります。
この計算方法の特徴は、3つあります。
計算結果がある程度正確
標準入力法ほどではないですが、
ある程度正確な計算結果を得ることができます。
外皮面積を室別に計算しないことや、
空調機の室内機を評価することが少ない点において、
標準入力法より入力する情報が少ないことが理由です。
入力項目が比較的分かりやすい
標準入力法に比べて、
入力項目が分かりやすいことも、大きな特徴です。
・モデル建物の単位で窓や外壁の面積を入力する
・空調機の室内機はほとんどのケースにおいて入力不要
・覚えるルールや入力事項が比較的少ない(標準入力法の1/3程度)
このような特徴から、モデル建物法入力シートへの入力も、
比較的分かりやすくなっています。
最も活用されている計算方法
モデル建物法は、非住宅の省エネ計算で最も利用されている計算方法です。
事実、私が業務で携わった数百件の物件の内、
9割以上はモデル建物法になります。
今後も、対象が拡大される省エネ基準への適合義務化において、
モデル建物法は、非住宅の省エネ性能計算方法の主流となることでしょう。
この他、入力シートへ必要な情報を入力する際のルールは、
マニュアルで確認することができます。
出展:国立研究開発法人 建築研究所「モデル建物法 入力マニュアル」
小規模版モデル建物法(オススメ度:☆☆☆)
WEBプログラムの中で省エネ性能を計算する方法です。
モデル建物法と同様、建物を用途別でモデル化した”モデル建物”を活用し、
WEBのプログラム上で必要な情報を入力するだけで、
プログラムが省エネ性能である「BEIs」を計算してくれます。
非住宅の計算対象部分の面積が300㎡未満の場合のみ、活用できる計算方法となります。
出典:小規模版モデル建物法入力支援ツール
使用承諾条件に同意することで、WEBプログラムを使用することができます。
特徴は3つあります。
計算結果は大まかとなる
WEBプログラム上では、最低限必要な項目のみを入力するため、
計算結果は大まかな値となります。
・各部分の外皮面積
・窓の面積
・主たる室を空調しない空調機
といった、他の計算方法で入力が必要な項目は、
この計算方法において、入力不要となります。
これらの項目は、プログラムの中で大まかに数値が設定されます。
入力事項が少ない
紹介する計算方法の中で、最も入力事項が少ないです。
主な入力項目は、以下のとおりです。
・主たる室の断熱仕様と窓仕様
・主たる室の空調機・照明器具の仕様
・使用用途に給湯する熱源の仕様
設備機器の仕様については、
規定値(プロブラム内で自動的に設定される性能)で計算することも可能であるため、
主たる室の断熱仕様・窓仕様さえ入力すれば、簡単にBEIsを計算することができます。
主たる室の設定が少し難しい
小規模版モデル建物法では、モデル建物毎で定められた「主たる室」という部屋について、
断熱性能や設備仕様を評価する形になります。
そのため、主たる室以外の室の断熱性能や設備仕様は、評価することができません。
この「主たる室」は、室の用途や面積で設定されるのですが、
主たる室が2以上存在する場合、どちらを主たる室とするのか、
判断する方法が少し難しくなります。
WEBプログラム上の細かい入力ルールは、マニュアルで確認することができます。
出展:国立研究開発法人 建築研究所「小規模版モデル建物法 入力マニュアル」
まとめ
非住宅の省エネ性能であるBEIを計算する方法について、紹介しました。
・外皮性能の計算方法は3つある
・WEBプログラムを活用した詳細計算は、シートへの入力が面倒
・EXCELを活用した詳細計算は、比較的わかりやすいオススメの計算方法
・WEBプログラムを活用した簡易計算は、簡易だが手続きで使用できない可能性がある
外皮性能の計算方法を理解し、様々な手続きに活用しましょう。