四号特例見直しに向けて

はじめに

2022年6月に改正建築物省エネ法が公布されました。
それに伴い、4号特例制度が見直されることになり注目されていますが、他にも様々な規制が改正されるのをご存知でしょうか。
主には、3000㎡超の大規模建築物の木造化促進や3階建て木造建築物の構造規制合理化等が発表されています。

今回は、私たちに身近な住宅に関係する
構造規制の合理化」「ZEH水準の木造建築物の構造基準見直し」「採光規定の見直し
について詳しくご紹介していきます。

構造規制の合理化

現在、木造建築物において建築確認申請を提出する際には、
延べ面積500㎡以下2階建て以下の場合は「壁量計算」、500㎡超えや3階建ての場合は「許容応力度計算」が必要になります。

「壁量計算」は簡易的な構造計算で、地震や風の力に対して必要な壁量が計画されているか確認するもので、
「許容応力度計算」は建物の部材にかかる力(=応力度)が、部材の許容できる力以下におさまっているか確認するものです。

保有水平耐力計算や時刻歴応答解析等の構造計算もありますが、木造住宅においては、「壁量計算」と「許容応力度計算」で対応することがほとんどになります。

改正内容

近年、建築物の省エネ促進が求められていますが、断熱材や設備を設置すると建物の階高が高くなる傾向があります。
3階建ての木造住宅であっても、高さ13m超え又は軒高9m超えの場合は高度な構造計算が必要となり、これが建築物の省エネ化の足枷のひとつになっていると言われています。

そこで今回の改正では、簡易な構造計算で建築できる規模が「高さ13m以下かつ軒高9m以下」から「階数3以下かつ高さ16m以下」に見直されることになりました。

併せて、2階建て以下の木造建築物で構造計算が必要になる規模は「500㎡超え」から「300㎡超え」に拡大されることになりました。
建築物の高さが緩和される一方で、規模に関しては厳しくなる内容になっています。
背景としては、大規模建築物以外でも大空間を有する建築物が増加しており、これらの建築物に対応した構造安全性を確保するためとされています。

改正時期

2025年4月

ZEH水準の木造建築物の構造基準見直し

上記でご説明したように、延べ面積500㎡以下(改正後は300㎡以下)2階建て以下の場合は「壁量計算」での構造計算が可能です。
「壁量計算」とは建築基準法施行令第46条4項に定められた構造計算で、各階の張り間方向及びけた行方向に、地震力と風圧力それぞれに対する必要壁量が計画されているか確認するものです。
具体的には、建物に計画されている「存在壁量」が、地震力と風圧力に対する「必要壁量」よりも多く計画されているか、各係数をかけて計算します。

改正内容

従来の壁量計算における「地震力に対する必要壁量」の係数は1981年に定められた数値です。
しかし、当時と比べると住宅は性能向上とともに重量も重くなっています。
近年進められている省エネ対策では断熱性能向上や太陽光発電等の設備設置により、建築物が重量化しているという調査結果もあり、今後はさらにその傾向が強まると考えられます。

そこで、今回の改正では省エネ化等による建物の重量化に対応した壁量計算方法が追加されます。
具体的には
 ①現行規定より精緻に検証する方法
 ②現行規定と同様に簡易に確認する方法
 ③構造計算により安全性を確認する方法
の3つがあげられています。

国土交通省公表資料はこちら

①    現行規定より精緻に検証する方法

地震力に関する必要な壁量の基準について、建築物の荷重の実態に応じて求める下記計算法が新たに作成されました。
また、存在壁量についても、従来は耐力壁としていなかった腰壁や袖壁等が算入できるようになります。
さらに、5倍が上限とされていた壁倍率についても引き上げが検討されています。

②    現行規定と同様に簡易に確認する方法

現在行われている壁量計算の「地震力に対する必要壁量」の係数が追加されます。

表中の「第四十三条第一項の表の(一)又 は(三)に掲げる建築物」とは土蔵造の建築物等重い建築物のことを、
「第四十三条第一項の表の(二)に 掲げる建築物」とは屋根を金属板等でふいた軽い建築物のことを指します。

まだ数値は決定されたものではありませんが、「ZEH水準等の建築物」の数値は軽い建築物の2倍を超えるものもあります。
2025年の法施行までは、ZEH水準の建築物も現行の数値で設計することが可能ですが、安全性を確保するためには改正法の壁量を確保しておきたいところです。

③   構造計算により安全性を確認する方法

構造計算により安全性を確認する場合は、現行法と同様、ZEH水準の建築物であっても壁量計算を省略することが可能です。

改正時期

2025年4月予定

採光規定の見直し

住宅の居室には自然採光が必要とされており、居室の床面積の1/7以上の有効採光面積を確保することが義務付けられています。
有効採光面積とは開口部の面積に採光補正係数を乗じて求め、採光補正係数は用途地域ごとに異なる係数で算出します。

有効採光面積=開口部の面積×採光補正係数

採光補正係数【住居系地域】=6×d/h-1.4

採光補正係数【工業系地域】=8×d/h-1

採光補正係数【商業系地域・無指定】=10×d/h-1

改正内容

有効採光面積が床面積の1/7以上という原則は変わりませんが、「照明設備の設置により、1/10 までの範囲内とすることができる」と緩和策が追加されます。
1/10とすることができる基準は、床面において50㏓以上の照度を確保することとされています。

住宅の設計をする際には、採光規制のために開口を大きくせざるをえないケースがあります。
しかし、開口部は気密・断熱の弱点になりやすく、開口部が小さいほうが省エネ上有利な住宅になります。

今回の改正は直接的には関係ないようにみえて、住宅の省エネ化を後押しする内容になっています。
また、現在は建築物のストックが増え、リフォーム工事も盛んになっています。
コロナウイルスの影響で需要が減った事務所ビルやホテルを住宅に用途変更したり、住宅で納戸利用していた部屋を居室に変更したり等が求められていますが、採光規定により難しいケースがありました。

今回の改正により、今までは活用できずに解体・建築工事が発生していた既存建築物が活用できるようになり、こちらも省エネにつながると考えられます。

改正時期

2023年4月

まとめ

省エネ法改正に伴い変更される建築基準法改正内容について、住宅に大きな影響があると考えられる3つをご紹介しました。

構造に関する2つの改正内容は2025年に施行予定ですが、既存不適格建築物となり将来価値が下がってしまうリスクや、法改正後にリフォームする可能性を考えると、今から改正内容に適合した設計を行うべきでしょう。
採光に関する改正は有利側の内容のため、従来の基準法に適合していれば問題になることはありません。
現在の設計で居室の広さや窓の大きさに不安がある場合は、改正後の基準で再検討してみると良いかもしれません。

今回ご紹介した改正内容について頭の隅に入れておいていただき、住宅建築や購入の際の参考にしてみてください。

国土交通省「改正建築基準法について」はこちら

国土交通省「木造建築物に関する改正項目」はこちら

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